感染の実態を知らないまま、もしくは運良く無症状で乗り切った方の体験談を信じて、「オミクロン株にかかっても軽症で済むだろう」とたかをくくっている人は意外と多い。 かくいうぼくも、自分が感染するまで、コロナにかかっても”ただの風邪”で済むだろうと油断していた節がある。 不謹慎ながら、死ぬことはないだろう、と思っていた。 実際、コロナを発症して3週間が経過するが、いまだに倦怠感は強い。 元気なときの仕事のパフォーマンスと比較すると、半分くらいの仕事量でぐったりしてしまう状態だ。 幸い、ぼくの状態は医学的に軽症であり、いまは仕事に復帰しているが、感染して感じたことは「コロナは今までになかったタイプの辛さ」であるということ。これまでの風邪とは違うし、やはりかからない方が良い。 あくまでも個人の体験談なので、症例の一つとして参考にして欲しい。 仕事が終わった帰り道、いつも以上に疲れている自分に気がつく。 その頃、ちょうど学会の出張が続いており、「疲れがとれてないな」としか思わなかった。 夜間になりベッドに潜り込んだ後、寒気に襲われる。 ーー熱か? そう思って体温を測るが36度台の平熱で異常なし。エアコンの効きすぎと判断し、結局その日はコロナを疑うことなく就寝した。 体の怠さは感じながらも、それ以外に何も症状はない。 この時点でコロナと気がつけばよかったのだが、翌日に仕事へ行ったため、一緒に働いているメンバーが一人濃厚接触者となってしまう。幸い、感染拡大は起きなかったが、無理をせず休んでおけば職場への影響は少なかったのかもしれない。でも実際のところ、倦怠感だけで仕事を休むのも難しい。 その日は、熱もなく、咳も出ずに帰路につくが、尋常でない倦怠感にはじめて、「もしかしたらコロナ?」という考えが頭によぎる。

激しい喉の痛みでコロナと気づく 感染経路は不明

いつも通り床についたが、夜中に激しいのどの痛みで目を覚ますことになる。 唾を飲み込むのも痛く、水も飲むのもつらい。 明け方になり関節痛も出現したため、「さすがにこれはコロナだろう」と勤務先の病院でPCR検査を受けたところコロナ陽性となったのだった。 可能性があるとすれば、研究の相談でコーヒーを飲みながら、マスクを外して何人かと喋ったことくらい。ただ、その方々がコロナに感染したという話は聞かないので、無症候性だったのか、もしくは出張の移動中にもらったのかもしれない。 激烈な喉の痛みは4、5日間続いた。その期間、唾を飲み込むのも痛く、なんとか水分は取れる状態だった。関節痛はそれほどひどくなく、熱も37度台前半で推移していた。病院で処方してもらったカロナール500mgとトラネキサム酸をそれぞれ1日3回内服し、ただただベッドに横たわる生活を送る。 ときどき痰が激しく絡み、うまく呼吸ができなくなって猛烈な不安に襲われる。急性喉頭炎という病気があり、悪化すれば呼吸困難となる。特に小児の場合、喉が腫れ、その後、犬の遠吠えやオットセイのような咳が出始めたら注意が必要だ。息をする際、ヒューヒュー、ゼイゼイ言うようであれば緊急の処置も必要な状態である。

自宅療養 固形物が食べられない

いっとき、今にも息が詰まりそうな程の喉の腫れであったが、ここは冷静に自分の息の音を聞いて判断し自宅療養を選択した。 うがいをしっかり行い、喉に絡んだ痰をこまめにとると楽になるのだが、このとき飛沫が大量に飛び散るので注意が必要だ。とくに家族と同居している方はここで感染拡大するリスクがある。飛沫に十分注意し、生活する部屋は分け、共用のスペースではマスクをつけたまま生活することでぼくの場合は同居する家族に移すことなく済んだ(参考資料1)。 のどが痛い間はほとんど固形物は食べられない状態であった。 ゼリーやヨーグルト、アイスなどはなんとか喉を通る。隔離解除するまで外に出ることは出来ないため、一人暮らしの方は事前にこれらの食料を蓄えておいた方が良いだろう。

コロナ感染前に準備しておくべきこと

発症日から数えて11日目に隔離解除となったのだが、体調は決して万全とは言えない状態であった。合わせて、右の胸に帯状疱疹が出現した。コロナ感染後、帯状疱疹出現の頻度が上がることは論文にて報告がある(参考文献2)。 いまは2種類のワクチンが登場しており、50歳以上の人は接種可能だ。コロナ感染は軽症で済んでも、帯状疱疹後の神経痛が後遺症として残る場合もあるので、帯状疱疹ワクチンも可能であれば接種しておいた方が良いだろう。 コロナに感染する前に準備できることは多々ある。まずはコロナワクチンだ。3回、もしくは4回の接種を済ませておけば感染しても重症化しない可能性が上がる。 ぼくはファイザー製のコロナワクチンを3回接種していたため、肺炎を起こさずに軽症で済んだと思っている。mRNAワクチンが心配な方には従来型のワクチン「ノババックス」も登場した。子供も含め、ワクチン接種をしておくことが重要だろう。 次に解熱剤だが、これは必要最低限に留めておかないといま必要な人に届かない可能性がある。つい先日、アセトアミノフェンを含有する代表的な解熱剤カロナールに出荷調整がかかった。事前にアセトアミノフェンを含む市販の解熱剤(例えばタイレノール。これであればアセトアミノフェンを300mg含有)を準備し、自宅待機の期間を乗り切る必要もあるだろう。 前述の通り、食料は喉の痛みが出た時を想定して準備するのがいいだろう。ゼリーやヨーグルト、栄養価の高い飲むタイプのゼリーなど、ぼくの場合は重宝した。また、激しい喉の痛みには市販ののど飴とトローチで対応した。

後遺症もつらい かからないのが一番

急激に感染者が増えたせいで医療機関の対応も追いついていない。軽症であっても10日間仕事を休む場合、病院でも感染証明が必要となる会社は多い。軽症で済むケースも多いため、必要な患者さんへの医療が優先される制度への修正が待たれる。 ずっと言われていることだが、3密を避け、マスクを外しての会話は控え、手洗いうがいをしっかり行うことが重要であると改めて感じている。体にムチを打って書いたこの記事が少しでも多くの方の役に立てば幸いである。 1.https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/shien/zitakuryouyouhandbook.files/zitakuryouyouhandbook02.pdf 2.Open Forum Infect Dis. 2022 Mar 9;9(5):ofac118.

【大塚篤司(おおつか・あつし)】近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て、2021年4月、近畿大学医学部皮膚科学主任教授。診療・研究・教育に取り組んでいる。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー皮膚疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとしてネットニュースやSNSでの医療情報発信につとめている。Twitterアカウントは、@otsukaman 著書に『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)などがある。

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